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名古屋高等裁判所 昭和50年(ラ)25号 決定

抗告人 中山房男(仮名)

相手方 中山義雄(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告代理人は抗告の趣旨として「原審判を取消す。本件遺産分割の申立を棄却する。手続費用は第一、二審とも相手方の負担とする。」趣旨の裁判を求めその理由として、

1  農地解放当時、被相続人中山義三郎の病気のため、抗告人が世帯主として原審判別紙目録1ないし8の物件を小作していた。

イ  それゆえ、同目録1の物件は実質的には抗告人が売渡しを受けたものであり、したがつて中山義三郎の遺産には属しないものである。

ロ  同目録2ないし8の物件を抗告人が売渡しを受けたのも右の事情にもとづくものであるから、抗告人が売渡を受けたことをもつて「生計の資本としての贈与」と解するのは相当でなく、せいぜい両親の扶養という負担付の贈与と解し得るに過ぎない。

2  昭和二四年に相手方のために建てられた木造平家建約三〇坪の家屋は、被相続人義三郎より相手方に対する生計の資本としての贈与である。

3  イ 前記1の物件の現価が六八五万三、七〇〇円もするとは思われない。

ロ 抗告人は資力がなく、原審判の命じるような債務を負担する力がないから、右1の物件を現物分割する方法をとるのが相当である。

と述べた。

そこで考えるに、当審も本件遺産の帰属、評価額、持戻財産の算定方法、遺産分割の方法などの諸点を含めて原審判を相当と思料するものであり、その理由とするところは左に付加する以外は原審判書理由第2記載のとおりであるから右記載をここに引用する。

1  原審記録中の各不動産登記簿謄本によると、被相続人中山義三郎が原審判目録1の物件の旧地、字○○九三五番三につき、抗告人が同目録2ないし8の各物件につき、それぞれ自創法第一六条による売渡を受けていることが認められるし、原審における抗告人相手方各審問の結果によると、右売渡当時、義三郎と抗告人とは同一世帯に属しており、右世帯は農業をいとなんでいたことが認められる。

右世帯の経営にかかる農業の主宰者につき、抗告人は自己が主宰者であつたと主張し、相手方は義三郎が主宰者であつた旨反駁している。そこで考えるに義三郎と抗告人の双方が農地の売渡を受け得たのは、そのいずれもが農業に精進する見込みのある農地買受適格者であつたことを示すものと解すべきところ、当時農地買受資格のある世帯主が相当年輩に達していた場合、将来の相続問題(遺産分割、相続税等)を慮つて、自己は買受人とならずに、推定相続人中農業継承者と目される者に、買受をさせた事例の稀でなかつたことは、当裁判所の職務上顕著なところであるのに対し、わざわざ親の名義で買受けるような事例は、極めて異例に属することを考え合わせると、本件農地解放当時の世帯主、農業経営者は義三郎であり、抗告人はその家族としてその指示の下に農耕に従事していたに過ぎず、したがつて前記目録2ないし8の物件の買受代金も義三郎の農業収入の中から支出されたものと推認するのが相当である。原審における抗告人審問の結果中右認定に抵触する部分は措信し難く、他にこれに反する証拠もない。

そうだとすると、右1の物件は義三郎所有物件であるし、同2ないし8の物件を抗告人が売渡を受けたのは、義三郎から贈与を受けたものとして本件遺産分割上取扱うのが相当というべきである。なお2ないし8の物件の性質数量にてらせば、右は当然生計の資本としての贈与とみるべきである。

2  抗告人主張の相手方に対する贈与の事実については、原審における抗告人審問の結果中、右主張に副うが如き部分は、同じく相手方審問の結果にてらし措信し難く、他にこれを認むべき証拠がない。

3  イ 前記1の土地の現価を六八五万三、七〇〇円とする原審の認定を左右するに足る証拠はない。

ロ 抗告人に現金支払の資力がないのなら、右1の物件の一部を自ら換価処分して支払う方法もある訳であるから、1の物件の現物分割をしないからといつて抗告人に不利益であるとはいえない。

よつて、本件即時抗告は理由がないから棄却することとし、民訴法四一四条、三八四条、九五条、八九条を適用し主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 柏木賢吉 裁判官 夏目仲次 菅本宣太郎)

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